Archi Review
第5回 Frank O Gehry House Frank O Gehry
2003年7月19日 井戸健治
1、 ゲーリー自邸
・現代の住宅の生産現場の状況を提示
ミースやライトのような洗練されたディテールのヒエラルキーの世界をつくる
職人がいない、予算もない。
→既製品、大量消費財を使用する。通常は既製品の組み合わせで擬似的に、大衆がイメージとして持っている「家」というイメージに近づけるように使用するが、大衆がイコンとして持っている家のイメージではなく、現代の住宅が既製品の寄せ集めを認識させるような表現。(ラフ・ディテール)
・都市や住宅に存在する建築部材の意図的、非意図的使用におけるイメージのギャップ
金網は通常は、テニスコートなどに使用されているが無意識である。
しかし、いったん意図的に使用されたとき、それは退廃的シュールさを伴う
ネガティブなイメージとして作用。
・空間を構築する(建築する)ことの意味を広げる。
既存の住宅の内壁や外壁をはがし、そこに新たな被いをかぶせ、
しかしその被いの隙間から内部がまた見える。
外壁や内壁をはがしたことを表現
・未完成の美学
「始まりがあって完成がある。」という前提にたいする疑問か?
・被覆
金網もゲーリーの設計プロセスの被覆の始まりとも見れるが、増築部分自体が既存部分に対する被覆と見れる。
2、 デコンストラクティヴィズム(脱構築主義)はよくわかりませんが...
・建築が建築であることの自己規定の打破
建築家が通常を何もないところから建築を構築していくときには、過去の建築を参照したり(オーダー・柱・梁・床・壁)、構造あるいは機能(所謂機能主義の)という名の根拠から構築していくが、ゲーリーはその根拠をいわゆる「建築」の小さな世界の「外」から持ってくる。
→建築内部で、その建物が、建築であることの規定(物を創る行為は往々にして、自分で自分の檻を築いてしまうものである)を崩そうとしたのではないか。
しかし、建築とはそんなに狭い世界なのか。(逆に一見狭いが故に深いものなのかもしれないが)。
矛盾だらけの後衛芸術である。プロセスをみると子供のときに誰しもが遊んだ積み木遊びの中に想像力で入っていき建築を思考しているようだ。人が入ることのできる3次元の空間をつくることにおいて、至極まっとうなやり方ではないか。形態に意味が存在しなければならない(形には説明ができなければならない)という強迫観念に疑問を投げかけているのではないか。
3、建築の多様性と対立性
「その状況(コンテキスト)で既成のものを使用する。」
「建築家の主な仕事は、部分においては慣習的なものを用いながらも全体を独自なものにすること。」
4、アートとの関係(彫刻と建築の異種混合)
キュビズム(立体派、立体主義)
ピカソ、ブラック、デュシャン「階段を下りる裸体No.2」
キュビズムの特徴:多面的な視覚による総合化、分析と再構築、断片化と寄せ集め、引用とコピー、
記号と図式、概念による知的ゲーム、生活の素材や環境的イメージ、マスメディアのイメージ
ダダ・ミニマリズム・ポップアートの影響(感情や意味内容の排除)
ダダ(非合理性を強調する芸術)手法はコラージュ、フォトモンタージュ、レディー=メイド、オブジェ
・クルト・シュヴイッタース「メルツ絵画」→メルツバウ(メルツ建築)
・デュシャン「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」
→未完成、自立した作品という近代の芸術観を解体
ポップアート(美術と日常の境界が問題)→ゲーリー:建築と大量生産品との関係の問題
ネオ・ダダ
・ロバート・ラウシェンバーグ「ベッド」身の回りの品々を組み合わせたアサンブラージュ(寄せ集め)
・ジャスパー・ジョーンズ「旗」、「的」
周知の記号の導入、主観的メッセージの排除、「絵画であること」の可能性についての問いかけ
→かれらはジャンクをアートに適用している。
・ジョン・チェンバレン「帽子のリボン」ジャンクアート
・クレス・オルデンバーグ「ザ・ストア」→「やわらかいトイレ」の変遷がゲーリーに影響
日常のものをハード化、ソフト化、ゴースト化する。あるいは、日常ものを巨大化する。
→日常のものに対する異化作用、ゲーリー自邸では増築自体が異化作用
→ゲーリーの場合はふるい城壁がやわらかい建築にメルト(溶解)しているよう。
板金の割りがレンガ目地の変わり
・ロン・ディビス「ゆがんだ空間」→ゲーリーの歪んだ空間の始まり
・川俣正←割り箸をばら撒いたような形態との近似(例:ファミリアン邸)
・ゴードン・マッタ・クラーク「既存の住宅へのスプリッティング(切り込み)」
→ゲーリー自邸の壁のはがし、外壁の切り込み
・デイビッド・スミス「キュービ・・・」→ゲーリー「ハーマン・ミラー社西部地区本部」
・アンソニー・カロ
5、 初期の作品からの変遷
スティーブス・レジデンス(ケーススタディーハウスの影響、シンプルな構成、架構が明快)
→ダンジガー・スタジオ・レジデンス(ミニマリズム+カーン)
→ロン・ディヴィス・ハウス
(空間の歪み・パースペクティブ+ボリュームの中のランダムなボリューム)
→ミッドアトランティック・トヨタ(ミニマルな箱の中のランダムな壁)
→ゲーリー自邸(ジャンク、チープな材料・既製品のコラージュ、スプリッティング、被覆)
→ロヨラ大学・ロー・スクール(分散するオブジェ) →フィッシュダンス・レストラン、カリフォルニア航空宇宙船博物館、チャット/デイ・メインストリート 建築以外のものの拡大(内部に入れる物体化)と引用(ラウシェンバーグ)
→ウィンストン・ゲストハウス(群造形、オブジェクトが連結される。オブジェクト毎の仕上げ)
→サーマイ=ピーターソン邸、シュナベール邸(十字型平面) →ヴィトラ家具美術館(群造形の要素が統一されていく、モーフィング)
→ビルバオグッゲンハイム美術館(群造形のモーフィングから表皮がメインに)
6、ゲーリーの作品の特質
箱とトップライト、オブジェクトの衝突 箱と有機的形態・凸凹な形態の併置 積み木を積んだような造形、中心になるほど高く積んでいき内部ボリュームがモーフィングされる。